結論:本好きが集まると、すごく楽しい。
はじめに
令和5年11月4日(土)に「10代のためのスケザネ講座 物語の読み方」と、11日(土)に「好きな本を語れる読書会」を開催。
ぎゅっと詰まったイベントを通して、改めて気づかされた本を読むことの楽しさ。そこにある広さ、深さ、そしてその楽しさを共有できるという面白さに心動かされました。
書評系YouTuberスケザネさんの魅力満載の講座、そして盛り上がりをみせた中高生、大人が参加した読書会の様子を皆様にお伝えいたします。
スケザネさんが物語の魅力を語る
スケザネさん
テレビ、ラジオ、YouTube、さらに大学や企業でのトークイベントやブックフェアなど、多くの場で講演会を行い、書評や文庫の解説も手がけ、各メディアから今注目を浴びている書評家のスケザネさんこと渡辺祐真氏。今回講師としてお呼びすることができました。
スケザネさんの書評や著書などを通して得た印象は、読むことの深みはもちろん、それでいて決して読み手を縛ることのない自由な感覚を大切にしてくれること。決して強要せず読み手に寄り添いながらも、本の面白さをしっかり伝えてくれるお話し上手。本だけでなくマンガやアニメにも精通し、若者の心もキャッチできる許容範囲の広さ。スケザネさんなら本を読むことへの熱い気持ちを、YA世代に絶対届けてくれると期待し臨んだ講座でした。そしてその期待にしっかり応えてくれた、魅力満載の内容でした。
こうやって読むのか『走れメロス』
今回、講座で取り上げたのは、太宰治の『走れメロス』。あらすじを参加者の皆さんと確認し、スケザネさん独自の注目ポイントや解釈を講義、そして参加者がそれぞれ感想をまとめ、スケザネさんに直接質問できるという流れでした。実は著書である『物語のカギ』(渡辺 祐真/著、笠間書院、2022)でも『走れメロス』に触れています。その中でもしっかり解釈が書かれていますが、著書にはない別視点の解釈を披露してくださり、一読者の私としては『走れメロス』の見方にさらなる広がりを持たせてくれて、大変得をした気持ちとなりました。また「例えば…」から繰り出されるスケザネさんのたとえが、有名な作家の例をあげたり、ある歴史の出来事を端的に話してくださるのですが、それがとても分かりやすい。参加者の一部から感嘆の声が上がったり、時に笑いが起きたりと、和やかな雰囲気で講座は進みました。
続いて、読書感想文を書く作業では、説得力のある文章の書き方や自説を展開する場合のコツなどをお話しくださいました。書くことも読むことも同様に、物語をつかむ為に大事なことだと知ることができ、書くことがとても楽しく感じられる時でした。
質疑応答の時間では、参加者独自の視点からの疑問を、直接スケザネさんに質問。それに対し、「その見方は無かった!」とスケザネさんもとても嬉しそうに答えてくださり、「答えが分からないけど…」と言いながらも繰り出す解釈がまた面白いのです。一緒に新しい見解を見つけ、そして考察する時間が持てたことがとても楽しく、贅沢なひと時を過ごすことができました。
読書会のめざしたところ
スケザネさんの講座も無事終わった1週間後、次なるは「好きな本を語れる読書会」。目指したところは「気楽に好きなことを語れる場」。YA世代にとって学校以外で近しい年代の人と出会い、好きなように語り合える「場」となってほしい。そして何より、自分が好きな本を存分に味わってほしい、楽しんでほしい、自由に語らってほしい。そんな思いを込めて今回企画させていただきました。
YA世代だけでなく広く一般の方にも申込みいただき、当日は4~5人のグループが3つ。YAグループが1つと大人グループ2つに分かれて行われました。部屋にはBGMも流して、のんびりとした雰囲気を作ってスタンバイ。そしてこの読書会のルールは3つ。
・(発表者の)両隣の人は必ずコメントする
・発言者の話は否定しない
・個人情報に触れない
このルールのもと各グループ読書会をスタート。各グループとても盛り上がった様子でしたが、中でも特に盛り上がりを見せたのは、YA世代ではないでしょうか。
話が止まらない!YA世代の読書会
男女共に2人ずつ、学年も違えば、性格も雰囲気も全然違いました。4人のうち2人は学校が一緒でしたが、「本が好き」という共通点のみのYA世代の読書会です、一体どうなるのかと、企画側は内心緊張していました。しかしその心配はすぐに吹き飛んでしまうほど、皆さん語る語る本を語る!しっかり話に耳を傾け、そして自分のターンでは本を熱く紹介してくれました。話を聞いていると、本の好みはそれぞれ全く違いましたが、皆さん本当に活き活きとしていて、会話は弾む一方でした。「それ絶対読む!」と声をあげて、タイトルをその場でメモ、「他にもこんな本…」と持ち出してくれた本を思わず立ち上がって皆でチェック。「それ、前から気になっていた本!」と自分の知っていた本に瞬時に反応。話が一巡してからも、YA世代の口から飛び出す数々のタイトルに全く追いつけず、記録を取るのが大変でした。タイトルだけでなく、「試験問題にでてくる問題文について」「安い本はこうやって手に入れる」「本の帯について」「新書が面白いから読むといい」などなど本のテーマが尽きず、ただ驚くばかりでした。ちなみに紹介された本は以下の4点です。皆さんのコメントも簡単にまとめてみました。
(※YA参加者の皆さんへ:解釈違ってたらごめんなさい!訂正が必要なら、お知らせください。なんとかします。)
・『永遠の0(ゼロ)』百田尚樹/著 太田出版 2006
コメント:構成が面白い。本には物語の時代に沿った地図も掲載されていて(文庫版には地図の掲載無し)すごく分かりやすいし、教科書に載っていない歴史も学べてすごくよかった。
・『これは経費で落ちません!』青木祐子/著 集英社 2016
コメント:どこから読んでも読みやすい。登場人物みんなキャラ立ちしていて面白いし、主人公たちの恋愛模様にキュンキュンします。
・『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹/著 富士見書房 2007
コメント:生活にいらないものを「砂糖菓子」って表現していて面白い。社会問題も含まれ、かなり濃縮な作品です。
・『竜殺しのブリュンヒルド』東崎惟子/著 KADOKAWA 2022
コメント:主人公の激しい内面の葛藤がしっかり描かれている。100冊以上ライトノベルを読んできたが、これは神レベルで面白い。
あらすじを語るときに感じた、その本にかける思いと熱さ。皆さんに染み入ってるなと思いながら楽しく聞かせていただきました。上記の本以外にも会話の中からたくさんの本が紹介されたのでご紹介いたします。
おわりに
講座、読書会を通して「本好きが行う講座、本好きが語らう場は、楽しくて仕方がない」という、当たり前のようなことですが、身をもって体感することができました。
スケザネさんもYA世代も、今やSNSを主流として、本の楽しさを調べ、広げ、共有しています。そしてそこには本に対する愛を持った人たちがたくさんいること、すごい世界が広がっていることを恥ずかしながら、今回肌で感じた気がいたしました。そしてそれだけたくさんの人が、本について語りたいと思っていることの証明でもあると、私は解釈しています。
「自分の楽しい」を語れる場、「好きな本」をもっと楽しめる場の一つとして、稲城市立図書館が今後も役割を担えたら嬉しいなと、意気込む次第でございます。