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好きなことを続けていたら道が開いた YAイベント『漱石推しの漫画家に聞く 香日ゆら先生講演会』
好きだから続けられた。好きだからとことん調べられた。そうしたら仕事になった!
2024年12月7日(土)、稲城市立中央図書館YAイベントに、漫画家の香日ゆら先生を講師としてお招きしました。ご自身のキャリアや、資料を調べ作品を創作する上で気を付けていることなどを熱く語っていただきました。
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香日ゆら先生の作品の魅力
『先生と僕』(河出書房新社)『JK漱石』(KADOKAWA)『夏目漱石解体全書』(河出書房新社)等、夏目漱石の人柄を知ることができる漫画や書籍を手掛ける香日先生。どれも夏目漱石の魅力が可愛く知的にコミカルに伝わってくる作品です。作品の中では夏目漱石だけでなく、後に歴史に名を残す著名人も多く登場し、この時代を駆け抜けていった人たちの熱量や人間味も知ることができます。さらにその内容も史実にしっかり沿っており、確かな資料に裏打ちされています。ご本人いわく、「夏目漱石を調べたりするのは趣味であって研究者ではない」とのことですが、「香日先生の趣味は、もはや研究者並みでは?!」と講演会を聞いた誰しもが思ったはず。そのぐらいの熱量を感じました。
講演会には様々な世代の方が参加してくださいました。配布してくださったレジュメには可愛い四コマ漫画等が掲載され、香日先生ワールド全開!また、NHK大河ドラマ『いだてん』で明治ことば指導に携わり、そこでの「裏話」も講演会のみという条件でレジュメに公開してくださいました。開始前から参加者の方も一生懸命読んでおられました。余談ですが講演会準備の際、レジュメがあまりに可愛かったので「ホチキス止めはやめよう。コレクターがいるかもしれない。」と司書間で交わされていました(笑)。開始時刻数分前、香日先生に会場に入っていただいたのですが、会場の雰囲気が静かながらもハッと変わりました。後に先生のファンの方がいたこともわかりましたが、「推し」が目の前に現れると、たとえ口に出さずとも空気は変わるのだと、肌で感じた瞬間でした。
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※『いだてん』での制作話については、「その場のみ」という話のため、ここでは省かせていただきました。ほかにもここに書ききれなかった創作方法など、掲載しきれていないことご了承ください。
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最適な時に「好き」が仕事になった。
香日先生は幼いころから本を沢山読んでいて、気づいたときにはイラストも自然と描いていたそうです。しかし実は、漫画家になろうとは思ってもいなかったようで、むしろ学生時代はどちらかといえば理系。卒業後は毎日数字と向き合うお仕事をなさっていました。夏目漱石に関する漫画はご自身の趣味の延長で、同人誌を作ったり、ネットにアップして楽しんでいたようです。そこに白羽の矢を立てたのがKADOKAWA。当初は仕事をしながら、副業として漫画の仕事を担っていました。「五話ぐらい描いて終わるのだろう」と思っていたとか。しかし予想に反して連載は続くことに。この頃、勤めていた職場で「もしや私は数字の扱いが苦手なのかも」と感じはじめ、かつ三十代に入った頃であり、先のことについて悩んでおられたそうです。そこで出版社の方に現在の仕事について相談したところ「仕事を辞めたら倍描けますね!」との返答。ここでやっと専業として漫画を描き始めることを決意したそうです。デビューは遅め。しかし香日先生曰く、人の様子や動き、周りが見えてきた頃合いであり、コミュニケ―ション術など分かってきたのが丁度このころ。人にはそれぞれ適切な時期がある。香日先生にとって最適なデビュー時期がこの時でした。
興味があればとことん調べる。もうそれは徹底的に!!!
夏目漱石を好きになったのは社会人になってからでした。
ある時、夏目漱石と正岡子規が親友だと知ったのがきっかけだとか。当時千円札の顔だった夏目漱石を見つめ、ふと疑問が浮かんだそうです。夏目漱石はそもそもどんな人なのか、なぜこんなにネームバリューのある二人にも関わらず、なぜ今まで親友であることを知る機会がなかったのか等々。疑問と興味が合わさって、徐々に夏目漱石への世界を広げていかれました。香日先生の作品を読むとわかるのですが、夏目漱石と正岡子規は学生時代からの古い付き合いで、学業を教えあうだけでなく、ふざけた手紙をやり取りしたり、愚痴をこぼしあったりするほどの仲の良さだったようです。
香日先生は夏目漱石を調べるため、近くの市立図書館に行き、並んでいる漱石関連本を読みあさり、図書館の書庫にある夏目漱石の本を探し、県立図書館に行き、そして次は図書館にない本も読みたくなり、とにかく探し、求め、調べたそうです。また年表が好きで沢山読んでみると、著者によってピックアップする内容が異なることに気付き、著者がどんな人かも気にするようになり、年表にも著者の個性が出ることを知りました。一次資料であっても著者について「この人は夏目漱石とどんな関わりを持っていた人物か」と見極めをし、付箋を貼りながら一冊につき3回は読むという徹底ぶり。また学生時代によく言われていたのが、「(結果に影響がでないよう)先入観を持って実験をしてはいけない」という言葉。おかげで、資料に対してバイアスやノイズが入っていないか、都合よく見たり解釈してないかなど気を付けながら調べ上げることができたそうです。他にも数々の調べ方のコツを伝えていただきました。情報過多社会に生きる上での調べ方はもちろんですが、その調べる姿勢は、司書としての私自身の学びにもなり、脱帽でした。もう香日先生にレファレンス担当(図書館の調べもの担当)としてご教示いただきたいぐらい感銘を受けました(笑)
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シンプル イズ ザ ベスト。
香日先生がされていることは、とてもシンプルです。
好きなことをやり続ける。
自分のペースで続ける。
周りは見ても人と比べない。
好きなものをもっと知りたいという興味で、どんどん進めて行く。
それが学びとなり、楽しみとなり、仕事として発揮する。自分の好きをシンプルに磨きあげるだけで、こんな大きな力になるのだと今回思い知らされました。
好きだからこそ、作品には夏目漱石の細やかな性格、人柄がしっかりと綿密に描き込まれ、魅力あふれる人物だと知ることができます。夏目漱石は江戸っ子気質で、怒りっぽいけど情には熱く、意外となんでも人任せ。自分の背格好に自信がないながらも(身長が約一五九センチだったとか)、ナルシストな部分もあり、家の棚にあるジャムを瓶ごとあっという間に平らげて奥さんに叱られるほどの大の甘党。他にも夏目漱石秘話はたくさんありますが、それを魅力的に面白く伝えられているのは、香日先生の原動力、「好き」という気持ちがあるからでしょう。
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「フレンチトースト・バニラアイス・紅茶のセット」
是非ご賞味あれ。
自分の「好き」に、素直に向き合うこと。理由も言い訳もせず「好き」にシンプルに向き合えば、おのずと道は開かれることを、香日先生を通して教えられた気がします。
香日先生、ありがとうございました!
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