スタッフおすすめ本『海獣学者、クジラを解剖する』
今回のおすすめ本は、『海獣学者、クジラを解剖する』です。
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書名:海獣学者、クジラを解剖する
著者:田島 木綿子
出版社:山と渓谷社
資料コード:510764175
請求記号:489/タ
かいじゅう学者って何?海に獣っていたっけ?
こんな疑問から手にとった本です。
海には想像をはるかに超える特大の哺乳類がいました。
地球の歴史から見るとやっと陸に上がってきた生物が、
作者の言葉を借りるなら
「陸の生活を捨て再び海に戻っていった変わり者」でした。
この本かなりの厚さがあり読み切れるか不安でしたが、
作者の解説が、勿論専門的な固有名詞が沢山出てきますが、
平易な文で書かれていてサクサクと読み進められました。
表紙のイラストも可愛らしいのですが、よく見ると
鯨をバラバラに解体作業しているもので、海獣学者の仕事が
肉体労働系並みのきつい仕事だと表していました。
巻頭にある複数の写真はかなりのインパクトがあり、
これでも小さい部類だという鯨の体内に潜り込んでの作業は、
海の獣の巨大さをひしと感じさせるものでした。
本文中にたびたび出てくる「ストランディング stranding」は、
はじめて知りました。
「クジラなどの海洋生物が浅瀬で座礁したり、海岸に打ち上げられる現象」
だそうです。
国内では年間300件ほどだということですが、
周りを海に囲まれた島国日本ならではの数と思っていたら、
同じ島国英国では年間500件だとか。毎日どこかの岸に乗り上げている
生物の多さに驚いています。今度海のそばに行ったらキョロキョロ
あたりを見渡し、ストランディングしている個体がないか探しそうです。
本文中に紹介されている国立科学博物館のストランディング速報を
インターネットで見てみると何日か間が空いている日もありますが、
同日に何件も重なることあり、南は沖縄から北は北海道まで日本各地から
情報が寄せられていることが分かります。
実はもうひとつ興味があってインターネットで見たものがあります。
本文中に紹介されていた「世界の鯨」のポスターです。
これはある女性スタッフが描いた物とか。スゴイの一言です。
美術館・博物館・展覧会のオリジナルグッズに目がない私としては、
是非手に取りたい物が出来ました。最近インテリア商材のあるメーカーが、
このポスターの拡大版ともいえる壁紙を作ったそうです。
現在はSDGsで盛んに環境保護が叫ばれています。
17項目ある中で14番目「海の豊かさを守ろう」では、
人間の陸上活動により海が汚染されるのを防ぎ、
汚染を削減すると書かれています。
大海原を悠々と泳ぎ、汚染とは無縁と思われていた鯨の胃袋から、
25年も前からプラスチック片が発見されていたことは衝撃でした。
また最近ではプラ片が体内を傷つけるだけでなく、プラスチック片に
汚染物質が吸着し濃縮され、健康に悪影響を与えると分かってきたそうです。
ストランディングして発見された鯨からプラスチック片が発見される。
この一連の流れの確率から考えれば、汚染が確実に進んでいることが
わかります。地球に生きるあらゆる生物にとって、
もちろん回り巡って人間にも汚染は避けて通ることができない
解決すべき問題であるとひしと感じました。