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50年越しの宿題提出

 小さい頃に読んでもらったけど、タイトルもあらすじも覚えていない絵本や、表紙がとても素敵で気になっていた本はありませんか?

 今から50年以上前、田舎の小学生だった私にとって学校の図書室は特別な場所でした。今のようにゲームや遊びの選択肢がなかったからだけではなく、やはり本が大好きだったからでしょう。6年生のある日、入り口に近い高学年エリアの高い棚に「肥後の石工」と書かれた本を見つけました。「肥後」も「石工」もよく意味が分かりませんでしたが、何だかその硬いタイトルに見過ごしてはいけないような力を感じました。「次はこれを読んでみよう」と思いながらそのまま素通りしてしまったのは、卒業間近できっと気ぜわしかったからでしょう。

 でも、中学生になっても高校生になっても社会人になっても、あの「肥後の石工」という本のタイトルは忘れられなかったのです。
「小学校の図書室のあの場所にあったなぁ…」「どんな内容だったんだろう…」。宿題なんか平気で忘れる子だったのに、その宿題だけはいつまでも心に引っかかって忘れられません。

 ようやく「何とかしよう」と思ったのは、2016年に発生した熊本地震がきっかけでした。熊本城を始め震災で傷ついた多くの建物と一緒に報道された益城町の通潤橋(つうじゅんきょう)。江戸時代「肥後の石工」と呼ばれた技能集団が各地で見事なめがね橋を構築した、そのひとつだと。

 やっと重い腰を上げました。図書館のHPから「肥後の石工」を検索し予約して届いたのは岩波少年文庫。もちろん50年前のあの装幀ではありません。
でも一気読みして、やっと胸のつかえが取れました。

「こういうストーリーだったんだ!」  

 「肥後の石工」が出版されたのは1965年。日本児童文学者協会賞、国際アンデルセン賞国内賞など数々の賞を受賞しているそうです。今読んでみても大人の鑑賞にも耐える力強い作品です。

 作品の内容ももちろんですが、一番満足したのは50年前のあの日に残してきた宿題をやっと片付けたという達成感。

 皆さんにも「大事なことではないけれど気にかかったままになっている」というものがありませんか?もしそれが本にまつわることなら、どうぞお近くの図書館カウンターにおいでください。ほんのちょっとしたヒントからでも、スタッフが一緒にお探ししてみますよ。

肥後の石工」 今西祐行作 2001年 岩波書店 岩波少年文庫 
資料コード:611234274
請求記号:G913/イ