稲城市立図書館50周年記念式典講演会
稲城市立図書館は1973年6月に開館しました。
稲城市立図書館(現第一図書館)が開館して今年は50年を迎えました。2023年は”稲城市立図書館50周年”の年として、事前準備を重ねて迎えた7月1日。朝からあいにくのお天気となりましたが、開会の時には雨は上がり、晴れやかに記念式典・講演会を開催することができました。
稲城市立図書館50周年記念式典
午後1時より行われた記念式典では、髙橋市長および北浜市議会議長から50周年のお祝いのお言葉を頂戴しました。そして、日頃から図書館活動にご支援いただいている13の団体の表彰式が行われました。稲城市立図書館の活動がいかに多くの方々に支えられて成り立っているかを実感する良い機会となりました。
ー表彰団体ー
・人形劇とおはなしのスーホの会
・いなぎおはなしの会
・おはなしの城
・おはなし花梨
・長峰おひさま文庫
・平尾親子読書会風の子
・ぶどう文庫
・絵本の会くるりくら
・稲城の図書館サポーター みんなのとしょかん
・図書館読み聞かせボランティア ひよこ
・図書館制作ボランティア みかん
・音訳グループペア
・中央図書館シニアボランティア
直木賞作家 窪美澄 講演会
午後2時からは、2022年『夜に星を放つ』(文藝春秋)で第167回直木賞を受賞された窪美澄先生の講演会が行われました。講演は図書館職員2人との対談形式です。稲城市出身である窪先生の稲城市立図書館の思い出や、直木賞受賞作『夜に星を放つ』の執筆秘話など貴重なお話を伺うことができました。
窪美澄 経歴
1965年生まれ、稲城市出身
2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞受賞
2011年『ふがいない僕は空をみた』(新潮社)で第24回山田周五郎賞受賞
2012年『晴天の迷いクジラ』(新潮社)で第3回山田風太郎生受賞
2019年『トリニティ』(新潮社)で第36回織田作之助賞受賞
2022年『夜に星を放つ』(文芸春秋)で第167回直木賞受賞
『夜に星を放つ』執筆秘話
直木賞を受賞した『夜に星を放つ』はコロナ禍の日本を舞台に編まれた短編集です。それぞれの作品は”星”にまつわる物語ですが、これは編集者の依頼であったことを講演で明かしてくださいました。
短編の一つ『真珠星スピカ』という作品では、重要なキーワードの一つとして”こっくりさん”が登場します。”こっくりさん”とは1990年代のオカルトブーム時に大流行しました。「はい」、「いいえ」と50音の書かれた紙に硬貨を置き、参加者全員の指を添えます。詳細は省略しますが、”こっくりさん”に質問をすると硬貨が勝手に動いて答えてくれるというものです。
窪先生はとある本を読んでこの作品の着想を得たとお話しくださいました。その本というのが『こっくりさんの父/中岡俊哉のオカルト人生』(岡本和明、辻堂真理/著、新潮社)本です。
中岡俊哉という人は”こっくりさん”ブームの仕掛け人であり、昭和オカルトブームをけん引した人物です。本書は中岡俊哉の生涯を追ったノンフィクションです。稲城市立中央図書館でも所蔵していますので、『夜に星を放つ』と合わせて読んでみてはいかがでしょうか?
また『星の随に』という作品は、窪先生の実体験が元になっているそうです。窪先生が以前に住んでいたマンションのエントランスで泣いている子どもがいました。心配した窪先生は声をかけ、部屋まで送ってあげたそうです。どうやら部屋でうるさくしているのを咎められ、コロナ禍で在宅勤務をしていたお父さんから外に出されてしまったようでした。窪先生は子どもと一緒にお父さんに謝ってあげたということです。時間にすると10分ほどの出来事だったそうですが、『星の随に』という作品を生み出すきっかけになったそうです。
稲城市立図書館の思い出
稲城市立図書館までの道中にあった駄菓子屋に行くのが楽しみだったことはよく覚えているけれど、図書館での具体的な記憶は薄いとのことでした。また、開館当初の稲城市立図書館ではエレベーターで遊ぶ子どもたちが多かったと伝わっていますが、窪さんはエレベーターよりも当時珍しかったウォータークーラーの記憶を「やっとたどり着いた図書館で冷たいお水を飲んだ」とお話しされました。寄り道しながら図書館を目指して、ほっと一息つく様子が目に浮かぶようです。
幼少期の読書体験
子どもの頃の読書体験については、
・中川李枝子『いやいやえん』『ももいろのきりん』
・松谷みよ子『ちいさいモモちゃん』シリーズ
・ヤンソン『たのしいムーミン一家』
・L.M.モンゴメリ『赤毛のアン』
・ローラ・インガルス・ワイルダー『大草原の小さな家』
・マイケル・ボンド『くまのパディントン』
など、翻訳ものの本をよく読まれていたとご紹介くださいました。
第167回直木賞受賞
窪先生は、2018年に『じっと手を見る』(幻冬舎)、2019年に『トリニティ』(新潮社)で直木賞候補に選ばれ、3度目の『夜に星を放つ』で直木賞を受賞されました。
受賞の連絡は作家本人に電話がかかってくるのだそうです。毎回、担当編集者の方と連絡を待っていたそうですが、受賞を逃した時には編集者が号泣してしまい、逆に自身は冷静だったという話や、受賞を逃した窪先生の前で、受賞した別の作家の作品について重版の打ち合わせを始められて傷ついたという話など、笑いを交えて披露してくださいました。一方、今回の受賞時はというと、あまり記憶がなく「気が付いたら金屏風の前に立って、記者会見をしていた。会見時の記者の方々が一心不乱にキーボードを叩く様子が怖かった」と話されていらっしゃいました。
「教えて窪さん!」コーナー
申込受付時に参加者に募った質問コーナーで、上手な文章を書くコツについて聞かれた時には、「恥ずかしい思いをたくさんしてほしい。私にとって文章を書いて他人に見てもらうのは自分の内臓を見られているようで今も恥ずかしい。しかし、恥ずかしいという思いを隠さずに自分の気持ちに正直な文章を書かなければ、共感してくれる人はいない」とおっしゃっていたのが強く心に残っています。
何をしている時にリラックスできますか?との質問では、窪先生は「執筆で疲れた後にも読書をする」と少し自嘲気味にお話しされ、無類の本好きな様子がうかがえました。
また好きな作家として太宰治、影響を受けた本に『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文/著 光文社)、最近読んだ本に『街とその不確かな壁』(村上春樹/著 新潮社)が紹介されました。太宰治については『津軽』がお気に入り作品だそうです。稲城市立図書館にも所蔵があるのでぜひ読んでみてください。
今回、図書館職員との対談形式ということもあり、地元トークで盛り上がる場面などもあり、先生の人柄に触れるアットホームな講演会となりました。
50周年を迎えて
稲城市立図書館が50周年という節目を迎えることができたのも、図書館の活動を支援してくださる団体の皆様、そして図書館を利用してくださる皆様のおかげです。今回、このような形で窪美澄さんをお招きしてお話をうかがうことができ、稲城市立図書館をご利用されていた方の中から直木賞作家が誕生したということがしみじみうれしく、これからも皆様の読書活動を支えてまいりたいと心新たにしました。
次の50年にもつながりますよう、引き続き稲城市立図書館のご愛顧をよろしくお願いいたします。