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描かれているものへの親しみや愛情を育てる――ボランティア養成講座「かがく絵本のできるまで」開催報告



昨年の2022年11月23日(水・祝)、福音館書店 月刊誌編集部長 石倉友直さんをお招きして、ボランティア講座「かがく絵本のできるまで」を開催いたしました。

児童担当初のイベント


 児童担当になって日の浅い私ですが、何度も目にし、手にとってきた、かがく絵本の編集をされている方のお話を伺えるとのことで、スタッフ側ではありますが、とても楽しみにこの日を迎えました。たくさんの参加者の皆さんと共に、どんな話が聞けるだろうとわくわくしながらはじまったボランティア講座でした。

福音館書店 月刊誌編集部長 石倉友直さん

その中でも、私が特に印象に残った4冊の絵本のお話をご紹介します。

ゆうぐれのさんぽ

ちいさなかがくのとも125号(2012.8)
高柳 芳恵 ぶん /夏目 義一 え

8月後半の夕暮れ時を舞台に描かれた絵本です。

(ちなみにですが、この絵本で描かれた里山の風景。なんだか見たことある風景だなと思っていたのですが、なんと幼少期に何度も遊びに行ったことのある里山が舞台として描かれており、一人テンションが上がった私でした。)

この絵本には、夕暮れの空をコウモリが飛び回る描写があります。ほんの一コマですが、作画を担当されている夏目義一さんは、リアルなコウモリの観察をしたうえで、この描写を描かれていたそうです。
当時、編集担当だった石倉さんは、コウモリの標本がある博物館に取材として夏目さんを連れて行こうとしたそうです。でも、夏目さんはリアルなコウモリが見たい!とご自身で製作した大きな網を振りまわして、なんと野生のコウモリを捕まえて観察したそう!
子どもたちにリアルなコウモリの絵を届けたいという作画担当の夏目さんの思いが、このお話からとても伝わってきました。情緒や感受性をはぐくむ重要な年齢である子どもたちが手に取る絵本だからこそ、ほんの一コマでも妥協せず、リアルを追求しているのですね。
また、本物を実際に見て触ったり感じたりしてほしいという思いから、写真ではなく絵を使って表現するなど、編集部の皆さんの絵本にかける思いが伝わってきます。


どんぐりころころむし

ちいさなかがくのとも 211号(2019.10)
澤口 たまみ ぶん/たしろ ちさと え

あちらこちらにどんぐりが転がっている季節。
持って帰ってよく観察してみると、穴あきどんぐりが。そんな経験皆さんにもあるでしょうか。この絵本は、そんなどんぐりを穴あきにしているシギゾウムシの仲間の幼虫をテーマに描かれた絵本です。
 カブトムシやテントウムシ、蝶々などのメジャーな昆虫をテーマに描かれた絵本は何冊もありますが、シギゾウムシといったあまり有名ではない昆虫をテーマに描かれた絵本ってとても珍しいなと思いました。
この絵本を読んで「どんぐりに穴をあけていたのはどんぐりむしなのか!」という発見から「じゃあ、どんぐりむしが穴をあけたどんぐりをさがしにいこう!」と経験につながります。日常で生まれる子どもたちの「なんで?どうして?」といった好奇心を刺激し、興味関心をもたせるのがかがく絵本。とても素敵なお話が聞けました。

石倉さんレジュメより引用したお言葉です。
「知識を与えることを目的とせずに、描かれているものへの親しみや愛情が育っていくことを大切に考える。」

じゃぐちをあけると

 ちいさなかがくのとも25号(2004.4)
しんぐう すすむ さく

「本の内容を真似して、蛇口から流れ出る水で遊ぶ子どもたち。でも家でやるには、水道代がかかっちゃう……。でもお風呂場でやれば問題なし!」

つばきレストラン

 ちいさなかがくのとも 143号(2014.2)
おおたぐろ まり さく

「実際に椿の花を見つけて、花の蜜をなめてみる。とってもあまい!だけど、椿の花は鳥たちのレストランだから、秘密にしようね」

簡単にですが、福音館書店さんに実際に送られた読者からのお手紙の一部です。
かがく絵本の編集で終わりではなく、絵本を届けた先も大切にされていることがわかるお話ですね。

私たち図書館スタッフの場合、本の貸出や読み聞かせまでしか利用者に関わることができないので、その先の絵本を読んでどう思ったかを聞く機会はあまりありません。今回のお話から絵本を届けたその先まで知ることができてとてもよかったです。

子どもたちが経験するための足掛かり

かがく絵本は、絵本を読んで子どもたちの興味や関心、好奇心を刺激することと一緒に、そのあとに実際にやってみよう見つけてみようと子どもたちが経験するための足掛かりにもなっていると感じました。また、親子のコミュニケーションのきっかけにもなっているのもこのかがく絵本です。子どもと一緒に、大人も興味や関心を持つことができるかがく絵本はとても素敵な絵本だなと感じました。

講座終了後は、石倉さんのお話をきいて「かがくのとも」を読み直したくなりましたとの声もちらほら。一緒に展示していた『ちいさなかがくのとも』もたくさん借りていっていただきました。私も講座にて紹介されていた本はもちろんですが、これからたくさん読んでいきたいなと思います。

講座記念特集展示

これから先もたくさんのかがく絵本と出会い、図書館のスタッフとして利用者の方々にお貸出しする機会もたくさんあると思います。そんな「かがく絵本」にかける思いを石倉さんのお話を通して、素敵な読み聞かせも交えつつ聞くことができた本講座。児童担当として勉強になった場面や、純粋に一読者として聞けてうれしい裏話などもあり、非常に充実した講座でした。

会場の様子

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