ある日の図書館から
夕方、児童書架の整頓をしていると、幼い女の子の弾んだ話し声が聞こえてきた。親御さんに話しかけているのだろうか、それとも仲良しのお友達に会ったのだろうか。
「みかん、おいしいね」
「おかあさんがそういうと・・・○○ちゃんは~」
その声に近づいてみると、本をめくっては何やらぼそぼそとお話をしているのは、2歳半くらいの女の子だ。スツールの上に上がって大切そうに本を抱えている。背を丸めている姿はちょうど親御さんに抱っこされながら読み聞かせをしてもらっているかのよう。ところどころ声色が変わるのはもう何度も読んでもらっていて真似っこをしているからだろうか。
私が立ち止まって見入っているのに気づいたのか、少し離れたところで座って本を読んでいる小学生くらいのお姉さんらしき子がしきりに
「しーっ。しーっ。ちいさい声で」
と心配そうに繰り返し声をかけている。きっと注意されると思ったのだろう。女の子も急にお話をやめて首をかしげて私の方を見た。
「ご本好きなのね、いいね。すごく楽しいお話ね。聞かせてくれてありがとう」
そう私が話しかけると、ぱぁーっと明るい表情に変わり、こっくりとうなずいた。お姉さんもほっとしたように微笑んだ。
図書館ではこのようなほほえましい子どもたちとの出会いが珍しくない。すっかり絵本の世界に入り込んで楽しんでいる姿からは温かな家族の絆すら伺え、私の方まで幸せのおすそ分けをいただいた気持ちになる。
翻って、年明け早々の自然災害で日常が一変してしまった子どもたち、長引く戦火の中でおびえた毎日を送っている子どもたち。想像をはるかに超えるたくさんの子どもたちが今日、今、困難な状況に置かれていることを思うと言葉を失ってしまう。
一日の終わりに、抱っこされて本を読んでもらい安心して眠りにつける、そんな当たり前の日常がどうか一日も早く戻りますように、と祈らずにはいられない。