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「本好き」の皆さま、お待たせ致しました――香月美夜先生講演会とワークショップ開催報告

 2022年10月30日(日)『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の作者である香月美夜先生が、講演会とワークショップのため稲城市立中央図書館にいらっしゃいました。今回残念ながら参加できなかった方々にもぜひお伝えしたい。図書館サイドから見た香月先生が来るまでの数々の出来事。また実際の講演会でのこと、皆様と共有したくこの場でお伝えいたします。

1年かかった超企画

『本好きの下剋上』とは、主人公が図書館司書を目指すファンタジーストーリー。投稿小説という新しい形のものであり、ライトノベルの今や筆頭格の書籍となっております。稲城市立図書館で所蔵するようになってからは、ビブリオバトルやヤングアダルト向け広報誌『ポルターダ』のおすすめ本に選ばれ、ベスト予約の常連となるなど、人気貸出本となっています。

YA広報誌『ポルターダ』No.50(2019年3月発行)表紙・裏表紙
YAボランティアさんの手による広報誌です。
『本好きの下剋上」について編集後記でも触れられています。
YA広報誌『ポルターダ』No.50(2019年3月発行)本文
熱い紹介文を書いてくれました。

 この講演会を実現するためにかかった時間は、なんと約1年。出版社の方との打ち合わせの連絡等いろいろ詰まった年でした。当初は2021年度開催を目指し、香月先生には講師として打診、出版社と連絡を取り、企画書の提出まで進めておりました。しかしこの時期の香月先生は多忙を極め「何とか講演を実現したいが、TVアニメ第三期関連の作業期間が重なっており難しい状況」ということで、2021年開催は断念することに。代わりに翌年の2022年ならば都合がつけられるかもしれないと一旦保留状態でした。そして待つこと今年の6月、ついにワークショップを主とした企画開催が決定し、日付も今秋の10月となったのです。

 香月先生の書く物語の内容は、本好き愛があふれる作品となっていて、図書館での講演会にまさにぴったりであり、司書として本当にうれしい知らせでした。
 館内のスタッフにも講演会の話が広まると「私もまぎれて参加したい…!!」「やっぱり申し込みがたくさん来るから、私はいけませんよね」と泣く泣く講演会を断念するお声をいただきました。「ああ、本当にすごい人が来るんだな」と思っていましたが、これはただの前兆、館内以上に外の反応に驚きでした

イベント告知当初のポスター
図書館利用カードの有無に関わらず市民と市外在住者の申込受付日を分けていました。

図書館に長蛇の列?

 はじめは先着順で、稲城市民を優先するも市内外問わず受け付ける予定でした。人気の香月先生のため、すぐに埋まってしまうだろうとは勿論想像できましたが、ホームページやSNSで告知をした後に、香月先生がTwitterで告知の投稿をリツイートしてくださるや、想像を超えた反応が返ってきました。普段は、稲城市立図書館のツイートのインプレッション数は840から多いときでも1,000越えが限度、さらに詳細まで調べてくれるのは10行くか行かない程度です。ところが、今回のツイートのインプレッション数は95,000回、詳細のクリック数は2,000件、さらにそのついでに当館のツイートを見てくれた方が1,000件越え!!桁が…違いました。

 参加したいとのコメントが多数上がり、まだ申込日ではないのに申込の電話がかかってくる事態となりました。「これはひょっとしたら、申込日初日の図書館に開館前から長蛇の列ができかねない」と、急遽申し込み方法について話し合いが設けられることに。結果はWeb申し込みによる抽選方式に切り替え、かつ稲城市民の中高生を優先し、さらに稲城市立図書館の利用カードを持つ人のみと限定枠を付けさせていただきました。
 多くのファンの方々には大変申し訳ない思いでしたが、混乱を避けるためには仕方のないことでした。ご了承ください。

ブックリスト作成へのご協力

 この反響に何か図書館側から応えたい。講演会までの期間、何か楽しいことはできないか。
 そして出てきたアイディアが、香月先生ご自身のこれまで読んできた本の展示をし、さらにブックリストを作成しようという一案。しかしここで浮上したのが「香月先生、お忙しいのでは…」問題。まさに今大人気連載中の著書を執筆中、その大変忙しい中でわざわざ時間を作って稲城市立中央図書館に来て講演会を催してくださること。これ以上はご負担になってしまうのではないか。断られてもそれは致し方ないことだと思いつつ、展示とブックリストの件をご相談させていただきました。

 ところが、執筆中という本当に大変忙しい中にも関わらず、香月先生は返事をくださり、しかも子どものころの読んでいたものから、なんと著書作成にあたり参考にした本まで答えてくださいました!

 著名な作家さんの中には、作品の参考にしている本というのはファンのお願いであっても「作品の連載が終了するまで教えません」ということはよくある話。ここは難しいかな…と想像していたのですが心よく快諾していただけました。私は著書のファンの1人として、大変うれしかったです。おかげさまで、展示コーナーも多くの人が足をとめて見てくれる場所となりました。
 展示コーナーに足を運ぶ利用者も、「ライトノベルだから若い学生が多いのかな」と思っていましたが、観察しているとシルバーグレイの素敵なおじ様が熱心にみていたり、お子さんを連れたお父様が手に取ったり、ビジネスマン風な方など幅広い年齢層の方が興味をもってご覧になっていました。その中で特に印象深かったのが小学生の女の子。5,6冊ほど『本好きの下剋上』を返却したのち、展示コーナーへ行ってポスターを見てくれたのですが、対象年齢を見たのでしょう、本当に悔しがっていました。

イベント告知の特集展示
香月先生の幼少期から『本好きの下剋上』執筆に至る読書体験の資料を集めました。

主人公登場!重厚な2時間30分

 講演会当日。受付が開始しているのに、壁際でそわそわしていた中高生の女の子。「緊張して、中に入れない。」と、ドキドキしながら待ちわびる可愛い姿が見られました。

会場設営の様子
縦長の会場をどう使うか思案しました。
どこからも先生が良く見えるよう工夫しました。

 受付開始時間にはすでに5,6組の参加者が見られ、静かながらも高揚とした雰囲気が伝わってきました。香月先生がどんな交通手段でどのルートでくるのかは当日まで知らされず、編集長と協力しながら、先生がスムーズに会場入りできるよう手筈を整えるなど、直前まで図書館スタッフ間も緊張しておりました。

イベント開始時間目前
受付から覗いてみると…緊張の面持ちです。

 そしていよいよ講演会がスタート。図書館スタッフの受けた香月先生の第一印象は「マインが来た!」でした。ふんわりとした柔らかな印象ながらも、伝えたいこと、自身のもっている強い思いを明確に伝えようとする姿はまさに主人公のマイン。文章を書きたいという熱い思いがよく伝わってきて、まるでマイン自身から講義を受けているような気持になりました。(ちなみに図書館スタッフ内の意見ではありますが、編集長の印象は神官長、そして同行していた旦那様はルッツでした笑)
 主にワークショップを主体とした内容でしたが、講義もとても面白く、小説家になるための必要なことや、書く以外に必要なこと、メンタルの持ちようから、プロットづくりなど、中高生に向けてわかりやすく、かつ具体的なところまで教えていただきました。受講している側としては「そんな発想があったか」と思うものばかりで、ワークショップも夢中になって取り組んでしまいました。

 ワークショップでは参加者の答案用紙を自ら回収しに各机を回り、参加者皆さんの緊張した面持ちを見させていただきました。中には耳が真っ赤になって用紙をお渡ししている参加者の方もいてほほえましかったです。「桃太郎」を事例とした、ネタ出しのワークショップの回答には一つ一つコメントをくださいました。「これは面白いですね。」「桃太郎が鬼に育てられるパターンか!」「これはもしやBL?笑」とテンポのいい先生の反応に、会場に笑いが飛びかいました。

たくさんの質問に答えてくださいました。

 「全部には答えられないかもしれないけど・・・」と言いつつも、最後の質疑応答の時間では、参加者の書いてくださった質問になるべく答えてくださいました。ここでほんの一部ですが質疑応答の内容を公開いたします。

会場の様子
中高生を中心とした参加者たちで定員いっぱいです。

Q.いつごろ小説の勉強をしようと思ったのですか。
A.「勉強」という意識はありませんでした。中学3年生のころに友人とちょこちょこ文を書いていましたが、その友人の中にマンガも文章も上手に書ける子がいたんです。その興味から小説の書き方の本を読んだりし始めましたが、「勉強」という意識はまったくありませんでした。

Q.情報管理はどうやっていますか。
A.基本は紙です。A4用紙を4分の1に折って、大筋を書きます。そして別の用紙に大筋に合わせて本づくり、人間関係、商売関係などがどのタイミングで進んでいくか書いていきます。そのため紙をたくさん使います。

Q.小説を書く上で、理論型と感覚型があるとおっしゃっていましたが、先生はどちらのタイプですか。
A.どちらかというと、感覚型です。これは人によって合う、合わないがあるものなので、ご自身に合うものを探してください。

Q.小説を書くにあたり、出来事の羅列になってしまいます。どう書けばいいでしょうか。
A.感情をいれていくといいです。文章の書き始めは状況から書いても、キャラクターのセリフから入っても問題ありません。

Q.プロットを作っても考えているうちに自分の書きたいものでなくなる。プロットを書くコツは?
A.自分の書きたいところだけ書くとか、ラストだけ書くという手もある。書きたいラストをまず書いて、そこからラストに繋げるためにどうするか、逆から考えるといいかもしれません。

Q.趣味も好きです、小説を書くのも好きです。どちらをすればいいでしょう。
A.その時に好きなことをやるのが1番です! 小説はいつでも書けますし、どの経験もネタになりますから。


 などなど、様々な質問が飛び交いました。

 長いようであっという間の2時間30分でした。
 とても楽しく、かつ貴重な時間を過ごせたこと、図書館スタッフ一同光栄に思います。
 香月先生、出版社の皆様、そして今回参加してくださった方々、応募をしてくださった方々、この場で感謝をお伝えいたします。
 ありがとうございました。

香月美夜先生のサイン
YA書架脇に飾りました。