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司書が司書に取材した⑫ ~貸出促進班の14個目の展示は時代を切り取ったノンフィクション受賞作品――中央図書館開館15周年企画の裏側

2021年度の開館15周年記念事業の中で生まれた4つの班の一つ「貸出促進班」は、本当にさまざまな展示やイベントを展開してきました。

その夫々の切り口の楽しさや斬新さに、利用者の方もスタッフも息を飲んできました。…いちご狩り展示に始まり、15㎝チャレンジ1500gチャレンジよむよむ島展示キノコ狩り展示Trick or Book覆面展示おみくじ展示行ったつもり!?展示貸出ベスト100、展示案内板作成、ベストセラー展示、C(コンピューター)棚展示。

そしていよいよ14個目が3月の「ノンフィクション展示」。カウンター前のこちらの展示、ご覧いただきましたか?

なぜ、ノンフィクション?

「ノンフィクション」とはどういった作品でしょうか?ノンフィクションの反対はフィクションですが、違いは「事実か創作か」です。フィクションは想像や架空の物語である一方、ノンフィクションは事実に基づいた小説や記事をいいます。ドキュメンタリーやルポルタージュ、記録文学とも言われます。事実の記録や綿密な取材に基づいています。冒険譚や史実、事件の記録、社会問題など私たちの知らない世界を見てきた著者独自の視点が反映されており、読めば新鮮な驚きや発見があることでしょう。
 
なぜノンフィクションという分野を選んだのかと尋ねると、最初は漠然と何らかの賞の受賞作15年間分がよいのではないかと、4つの候補が出たそうです。

①  児童向け、YA向け、一般向けでテーマとなる文学賞を設定、過去15年間の受賞作を展示
②  ノンフィクションをテーマに本屋大賞、大宅壮一ノンフィクション賞、小学館ノンフィクション賞、開高健ノンフィクション賞…の過去15年間の受賞作を展示
③  YAの文学賞を展示
④  一つの賞に絞って受賞者の受賞作以外の作品も展示

各種の文学賞を検討していく中で、ノンフィクションというジャンルの特異さ、奥行きに興味を持ったそうです。今回の展示で15年間に起こった出来事を振り返る挑戦は、図書館の展示にふさわしいのではないかと。…貸出促進班の展示のキャパの広さ。たった5人衆なのに!

展示本の準備

展示のための本を集める作業について聞いてみました。展示のスペースから考えて、少なくとも60~70冊は必要です。そんなに多くの受賞作を中央図書館で所蔵しているだろうかと心配になったそうです。上にあげたノンフィクションの文学賞の15年分を手分けしてリストアップして調べてみたところ(…なんて簡単に言いますが、この調査力ったら!)想定数はクリアできることが確認出来たそうです。歴代の選書担当者の方々にも感謝の思いを馳せました。



本を集めた日はロシアのウクライナ侵攻が始まった日でした。ノンフィクション作品は戦争を題材にしたものも多くあります。書架の間を歩いて本をピックアップしていると、その日の現実と本のテーマとがリンクして複雑な思いがわいてくるのを実感したそうです。またノンフィクションの本はページ数も多く厚いものが多いのですが、本の厚みと現実の重み、著者の思い、特に戦争関係では平和への思いが強く感じられたそうです。
 
2006年からの15年の間にあった事件や社会現象を取り上げた作品から当時のことが思い起こされました。2011年の東日本大震災を取り上げたものが多くありました。『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(大鹿靖明)、『つなみ 被災地のこども80人の作文集』、『「つなみ」の子どもたち 作文に書かれなかった物語』(森健と被災地の子どもたち)、『カウントダウン メルトダウン』(船橋洋一)、『牛と土 福島、3.11その後。』(眞並恭介)、『家族写真 3・11原発事故と忘れられた津波』(笠井千晶)、『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』、『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』など8冊に及びます。2014年、当時社会を騒がせた事件を取り上げた『捏造の科学者 STAP細胞事件』(須田桃子)。2011年から始まった中東の民衆革命を題材とした『ジャスミンの残り香――「アラブの春」が変えたもの』(田原牧)。
 
他にも死刑問題、日本人の拉致問題、出生前診断などの社会現象を取り上げたものや、さまざまな冒険譚、伝記など、やはり15年間の社会現象を伝える作品が多くあり、それらの問題について今新たに考えるきっかけになりそうです。

今回はこの6つのノンフィクション賞を参考にしました

展示のディスプレイにはこだわりが。

展示のディスプレイは、多くの方に興味を持ってもらうために大変重要です。もちろん主役は力作揃いの受賞作の数々なのですが。展示スペースの背景は15年間を振り返る意味でも受賞作で「年表」を作成することになりました。
 
デザインと入力を担当したスタッフの狙いは、興味がない人にも「何かな?」と近寄ってもらえるような目を引く年表を作成することでした。街を歩いている中で、ふと目を惹くデザインってありますよね。実はこのスタッフ、館内掲示も手掛けています。色、デザイン、情報量など、バランスの良さに図書館の居心地もアップしているような印象があります。
 
受賞年ごとに色別に並べたらカラフルでインパクトのあるものが作れるのではないかとスタートしたそうですが、実際には苦労続きでした。レイアウトは既存のひな型を使おうと考えていましたが、全てを入力しきれず。結局、Power Pointのsmart artをいくつか組み合わせてデザイン修正したそうです。

6つのノンフィクション賞、15年分を1枚に。

文字の大きさにも苦慮しました。図形を少し移動させると期せずして他のものも動いて一枚におさまらない、フォントの種類やサイズを変えるとまたまた動く、せっかく途中まで入力しても苦労の甲斐なくボツにしたものは数え切れないそうです。こういう手間、意外と侮れません。入力を手分けしてできればよかったのですが、レイアウトを整えながらなので、結局一人での作業になりました。こうした地道な作業は時間がかかるもの。通常業務を逼迫しないように進めるのは、さぞ大変だったと想像されます。
 
出来あがった年表を巨大なポスターにして展示の背景としました。テーマに配慮されたのか、明るすぎず暗すぎず、しかも人目を惹くディプレイとなりました。またこの年表は受賞作のリストも兼ねている優れものです。今回の展示のお持ち帰りリストとして配布されました。手にとっていただけたでしょうか?

いよいよ展示が始まりました

3月1日よりいよいよ展示が始まりました。利用者の方々の反応が気になります。大きく掲示された年表のインパクトは強く、立ち止まって本も手に取って下さっていました。当初は本が収まりきらず重ねて並べていたのですが、どんどん貸出されて、2週間ほどで半分以下に。空きスペースが目立ってきました。
 
貸出促進班のスタッフは、リストを作ったり、本を集めたり、そして年表作成などの作業を進める中でニュースで見たことがあるテーマをなぞり、15年間の時代性を実直に振り返れたそうです。今後も取り組まなくてはならないテーマであると強く感じたそうです。
 
何より利用者の皆さまに興味を持っていただけて、用意した本が借りられているということは、貸出促進班のスタッフにとっては大きな喜びでした。

15周年、15番目のイベントは?

ノンフィクション展示は貸出促進班にとって14番目のイベントでした。あと一つでちょうど15のプロジェクトを完了することになります。というわけで貸出促進班では次なるミッションに向けて走り出していました。題して「いちごがり2022」です。(ちなみに、スタートの展示が「いちごがり展示」なので、一周していちごの季節に戻ってきたのですね。)こちらは新生活に役立つお弁当関係の本を中心に集めました。


どんな展示も思いのまま。記念すべき15周年に15個のプロジェクトを完了させたスタッフの皆さん、一年間ありがとうございました。お疲れさまでした!

すべてはここからはじまった…!


(稲城市立中央図書館開館15周年記念事業 プレス班)

稲城市立中央図書館 開館15周年記念事業
稲城市立中央図書館は2021年7月1日に開館15周年を迎えました。
これを記念に、さまざまな企画を開催しました。
図書館ホームページでは、特設ページをご用意し、15周年記念事業について随時お知らせしております。



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